「北の果て、荒れ狂う海と風が育むヴァイキングの魂」
スコットランドのさらに北、およそ70もの島々からなるオークニー諸島。かつてヴァイキング(北欧の海賊)が支配し、今も古代ケルトや北欧神話の息吹が色濃く残るこの島に、スコットランド最北端の蒸留所「ハイランドパーク(HIGHLAND PARK)」はあります。
多くのウイスキー評論家から「世界で最もオールラウンダーで秀逸なシングルモルト」と絶賛されるこの銘柄。アイラ島の強烈な潮や薬品のようなピートスモークとは異なり、ハイランドパークの煙は「ヘザー(ヒース)の花」の蜜のように甘く、そしてフローラルに香ります。
今回は、伝統的なフロアモルティングと独自のヘザーピートを守り抜き、北の果てでヴァイキングの誇りを今に伝える「ハイランドパーク蒸留所」の歴史と秘密について、帰省中の長男との晩酌風景とともにお届けします。
我が家の晩酌ノオト:長男と語る、北の果てのヘザーハニー
週末の夜。県外の大学から帰省している長男が、最近よく着ているお気に入りの鮮やかな青い服を羽織って、リビングのテーブルへやってきました。
ハイランドパーク蒸留所の特徴と歴史
密造者であり聖職者。伝説の創業者マグナス・ユンソン
ハイランドパーク蒸留所の創業は1798年とされていますが、その起源はさらに昔に遡ります。創設者であるマグナス・ユンソンは、昼は教会の伝道師(長老)、夜は伝説的なウイスキーの密造者という二つの顔を持つ人物でした。
彼は礼拝堂の説教壇の下に密造酒を隠し、役人の目を誤魔化しながら、この地で極上のウイスキーを造り続けていたという、まさにバイキングの血を引く反骨精神あふれる伝説が残っています。
究極の甘い煙「ヘザーピート」の魔法
ハイランドパークの最大の特徴は、その独特な「ピート(泥炭)」にあります。
オークニー諸島は強風が吹き荒れるため、高い木が育ちません。その代わり、島を覆い尽くしているのが「ヘザー(ヒース)」という可憐な花を咲かせる低木です。
ハイランドパークは、自社が所有するホビスター・ムーア(湿原)から、このヘザーがたっぷりと蓄積されたピートを切り出して麦芽の乾燥に使用しています。アイラ島のピートが「潮や海藻」を含むのに対し、オークニーのヘザーピートは「花の蜜(ヘザーハニー)」のような甘くフローラルなスモーク香をウイスキーに与えるのです。
伝統の「フロアモルティング」とシェリー樽熟成
現代のウイスキー造りにおいて、機械化の波に押されほとんど姿を消してしまった「フロアモルティング(床に麦を広げ、職人が手作業でシャベルを使って麦を攪拌し発芽させる伝統製法)」。ハイランドパークは、現在でもこの重労働を自社で行い、全体の約20%の麦芽を賄っています。
さらに、熟成にはオロロソシェリーでシーズニング(風味付け)されたヨーロピアンオークとアメリカンオークの樽を贅沢に使用。ヘザーハニーの甘い煙に、シェリー樽由来のドライフルーツやスパイスのコクが重なり、比類なき複雑さを生み出しています。
ハイランドパークを代表する傑作ボトル
北の果ての厳しい自然と職人の手作業が育む、代表的なラインナップをご紹介します。
1.ハイランドパーク 12年 ヴァイキング・オナー
ブランドの核となるスタンダードボトル。グラスに注ぐと、ヘザーハニーの濃厚な甘さと、オレンジやシトラスの爽やかな果実味、そして微かな焚き火の煙が完璧なバランスで立ち上がります。ピートとシェリーの調和を知るための、最高の名刺代わりとなる1本です。
2.ハイランドパーク 18年 ヴァイキング・プライド
世界中の品評会で数々の最高賞を受賞し、「世界最高のスピリッツ」とも称される傑作。ヨーロピアンオークのシェリー樽比率が高く、熟したチェリーやダークチョコレートの深いコクと、フローラルなピートスモークが極上のオーケストラを奏でます。
まとめ:ヴァイキングの誇りが宿る、完璧な調和

荒れ狂う海風に耐えながら咲くヘザーの花が、長い年月をかけてピートとなり、職人の手作業によるフロアモルティングとシェリー樽の魔法を経て、グラスの中で黄金色の液体へと昇華する。
明日もまた、素晴らしいウイスキーとの出会いがありますように。乾杯。
