「ボトラーズの長年の夢と、アイラの伝説が交差する真新しい聖地」
世界中のウイスキーファンを熱狂させる聖地、スコットランド・アイラ島。このピートの煙が立ち込める島に、2018年、実に10年以上ぶりとなる待望の「9番目の蒸留所」が誕生しました。
それが、独立系ボトラーズ(瓶詰め業者)として名高いハンターレイン社が、親子二代にわたる長年の夢を叶えて設立した「アードナッホー(ARDNAHOE)蒸留所」です。
ウイスキー造りのあらゆるノウハウを知り尽くしたボトラーズの情熱と、アイラ島を知り尽くした伝説的なマスターディスティラーの知見が融合。最新の設備を備えながらも、彼らが目指したのは徹底的に「昔ながらの伝統的な製法」でした。
今回は、アイラ島で唯一となる「木製ワームタブ」を復活させ、フルーティーさと強烈な煙を見事に両立させた新星「アードナッホー蒸留所」の歴史と秘密について、県外から帰省中の長男との晩酌風景とともにお届けします。
我が家の晩酌ノオト:長男と語る、アイラ島9番目の奇跡
週末の夜。県外の大学から帰省している長男が、最近お気に入りの青い服を着て、夕食後の一杯を求めてリビングのテーブルへやってきました。
アードナッホー蒸留所の特徴と歴史
ボトラーズの情熱と、アイラの伝説「ジム・マッキュワン」
アードナッホー蒸留所は、ハンターレイン社のスチュワート・レイン氏と、その息子たち(アンドリュー氏、スコット氏)の「自らの手でウイスキーを造る」という生涯の夢から始まりました。
彼らが夢の実現のために生産ディレクターとして招き入れたのが、かつてボウモアやブルックラディで活躍し、アイラ島のウイスキー界で「生きた伝説」と称されるジム・マッキュワン氏です。最高のチームがタッグを組み、美しいアードナッホー湖の畔(ゲール語で「くぼ地を望む丘」)に、究極のアイラモルトを造るための城が完成したのです。
アイラ島で唯一となる「木製ワームタブ」の復活
アードナッホー最大のこだわりは、最新の建物を持ちながら、中身の設備は「徹底的に伝統的(クラシック)」であることです。
大麦の粉砕には約100年前のビッカーズ・ボビー・ミルを使用し、発酵にはオレゴンパイン製の木製ウォッシュバックを採用して約65〜70時間という長めの発酵を行います。
そして最も特徴的なのが、蒸留後の冷却装置にアイラ島で唯一となる「屋外の木製ワームタブ(巨大な樽の中に蛇管を通す旧式の冷却装置)」を採用していることです。これにより、アルコールの蒸気がゆっくりと冷やされ、原酒に肉厚な深みと複雑さが与えられます。
スワンネックが生む「フルーティーでピーティー」な酒質
蒸留器(ポットスチル)にも強いこだわりがあります。スコットランドで最も長いとされるスワンネック(白鳥の首のように長く伸びたパイプ)を持つランタン型の蒸留器を使用しています。
長い首を蒸気が登っていく過程で銅との接触が増え、重たく雑味のある成分が落ちるため、非常に華やかでフルーティーな香りの原酒が抽出されます。
フェノール値40ppmというしっかりとしたピートスモーク(泥炭の煙)を持ちながらも、決して重苦しくならず、フルーツの甘みと軽やかに調和する「フルーティー&ピーティー」な酒質こそが、アードナッホーの真骨頂です。
アードナッホーを代表する傑作ボトル
稼働開始から5年が経過し、ついに世界のウイスキーファンに向けて解き放たれた記念すべきボトルをご紹介します。
1.アードナッホー インオーギュラル リリース(5年)
2024年に発売された、蒸留所初となる記念すべき「ファーストリリース」のシングルモルト。バーボン樽(80%)とオロロソシェリー樽(20%)で5年間熟成させた原酒をヴァッティングし、アルコール度数50%でボトリングしています。
グラスに注ぐと、焼きリンゴやショートブレッドの甘い香りと、アイラ島らしい力強いピートスモークが見事に調和します。口に含むとカスタードクリームやレモンゼスト(皮)の爽やかな風味が広がり、5年という若さを全く感じさせない、驚くほど複層的で完成度の高い1本です。
まとめ:新しい聖地が紡ぐ、フルーティーな煙の魔法

数え切れないほどの樽を吟味してきたボトラーズの舌と、アイラ島の伝説的職人の経験。そして、非効率を承知で選んだ100年前の粉砕機や木製ワームタブといった伝統的な設備たち。
明日もまた、素晴らしいウイスキーとの出会いがありますように。乾杯。
